遺体の安置のしきたり

●湯灌・死化粧の作法

 医師によって死亡が確認されたら、遺体を拭き浄(きよ)めます。いわゆる「湯灌(ゆかん)」ですが、これは本来、汚れを落とすほかに、死者の霊を復活させようという呪術的な願いもありました。
 昔は、たらいに水をはっておき、そこに湯を入れてぬるくする「さかさ水」というやり方で、柄杓(ひしゃく)ややかんを逆手にもったりしました。
 現在では、病院で亡くなるケースが多く、そのような場合には、看護師などによりガーゼや柔らかい布、脱脂綿などにアルコールを浸したもので、全身を拭き浄めることが多く、「清拭(せいしき)」と呼ばれます。その後、汚物が出ないよう、のどや耳・鼻・肛門に脱脂綿を詰めます。
 遺体には「死化粧(しにげしょう)」も施します。目を軽く閉じさせ、口は下から顎をもちあげるようにしていると自然に口を閉じます。
 そのあと髪を整え、男性はひげを剃ります。女性は軽くおしろいをつけ、口紅を薄めにさしてあげます。
 これらは病院で行うケースがほとんどです。

●遺体安置の作法

 敷きふとん、かけぶとんとも薄いものを一枚ずつにし、かけぶとんがふだん足元にくるほうを頭に向けてかけます。死者は北枕に寝かせ、胸元で合掌させて顔は白い布でおおいます。北枕に寝かせるのは、お釈迦さまが涅槃(悟りののちに死亡)に入ったときの姿が、頭を北にしていたことからきています。しかし、部屋の都合で北向きが無理な場合は、極楽浄土があるという西を枕にしてもかまいません。
 枕元には、屏風を逆さに立てます。これを「さかさ屏風」といっていますが、北枕やさかさ水と同様に、ふだんの逆のやり方をすることで、死という非日常の世界を象徴しているのです。
 また、宗派によっては枕元や胸元に魔除けとして守り刀を置きます。

●枕飾りの作法

 遺体を安置したら、枕元にいろいろな供物を供えます。これを「枕飾り」といいます。
 仏式では、経机か、なければ小机に白布をかけた台の上に、花、線香、ロウソク、宗派によっては団子、水、一善飯などを供えます。花は仏前草と呼ばれる樒(しきみ)か菊を使うことが多いようです。
 一膳飯は、故人が使っていた茶碗にご飯を丸く山盛りにし、箸をまっすぐに立てます。団子は「枕団子」ともいい、上新粉を蒸すかゆでるかして作り供えます。数は地域の風習によりさまざまですが、水の容器は、日頃使用している茶碗かコップでかまいません。注意すべき点は線香とロウソクの火を絶やさないようにすることです。
 神式では「枕なおしの儀」といいます。遺体を北向き、あるいは頭を部屋の上座方向に安置します。枕元へ屏風を立て、逆さに立てるのは仏式と同じ。次に、遺体の前に白木の八足台(案)を置き、その上に水、洗い米、塩、お神酒などの供物を供え、両脇に榊を飾って灯明を灯します。
 いずれにしても、これらの習慣は、地方や宗教によって違い、また一般的な傾向として簡略化されてきています。近親者や葬儀社、宗教者に相談してどうするか決めたほうがよいでしょう。