神式の葬儀

●通夜祭

 仏式での通夜の儀式にあたるものを、神式では「通夜祭」といい、ふつう「葬場祭」(告別式にあたる)の前夜に行います。
 通夜祭は、死によって身体から出ていった魂が、再び身体に帰ってくる、つまり生き返りを願うのが本来の儀です。通夜祭が終わると、死は確定したものとみなされます。
 神式の通夜祭は本格的にやろうとしたら、斎場でないと無理です。自宅では、祭壇をしつらえ、その前で進行します。まず神官が霊前に拝礼、祭壇に供物をささげます。供物は故人の好んだ食べ物や洗米、水、塩、神酒などのほか、生物(なまもの)の場合もあります。続いて、神官が祭詞を奏上、楽員による奏楽があります。神官に続き、一同が玉串奉奠(ほうてん)をします。このときの柏手(かしわて)では「しのび手」といって音を立てません。
 玉串奉奠がひととおり終わると、斎員が供物をさげ、一同霊前に拝礼して、退席します。
 通夜祭が済んだら、喪家では神官を上座にして、参列者一同に、故人をしのび酒食のもてなしをします。

●遷霊祭

 通夜祭が終わると、「遷霊祭(せんれいさい)」を行います。遷霊祭は通夜祭に引き続いて行う場合と、出棺直前に行う場合があります。
 神式の葬儀では、この遷霊祭が重要です。遷霊とは、魂を霊璽(れいじ)(仏式の位牌にあたるもので、霊がこれに宿るとされる)に移す儀式です。遷霊祭は夜間に行うのが正式で、すべての明かりを消し、一同平伏のうちに、神官が遷霊の詞を奏上して、魂を霊璽に移します。霊璽には鏡や、位牌の形をした木主(もくしゅ)、笏(しゃく)などが用いられます。

●葬場祭

 仏式の告別式にあたる儀式です。
 葬場を飾り付け、中央に棺を安置し、銘旗(めいき)を立てて霊璽を置きます。
 祭儀に入る前に「手て水みずの儀」を行い、順次着席します。
 神官が「修祓(しゅうばつ)」といって、お祓いをし、ついで祭壇に供え物をします。
 次に祭詞奏上に移ります。祭詞には、故人の出生、経歴がおりこまれ、人柄や業績が称えられます。楽員による奏楽の中、弔辞、弔電の披露があり、神官から始まって、一同玉串を奉奠します。玉串は仏式の香にあたるものです。

●出棺から忌明けまで

 棺が喪家を出発するときの儀式を「出棺祭」といいます。本来は夜間に松明(たいまつ)をかかげて葬列をつくり、墓地に向かったのですが、現在は出棺はほとんど日中なので、出棺祭の儀式は省略されることが多くなりました。
 出棺に際しての、故人との対面や出棺の作法は、仏式とほぼ同じです。
 火葬場へは、遺影のほかに、銘旗や花、玉串などを持っていきますが、これらは葬儀社が用意してくれます。
 出棺したら、家に残った人たちは家の内外を掃除し、その後手水をして、神官にお祓いをしてもらいます。そのあと遺骨を迎えるための祭壇を用意しておきます。
 一方、火葬場では、仏式の納めの式にあたる「火葬祭」を執り行います。かまどの前に案をおき、祭詞奏上のあと、一同が玉串を奉奠します。そのほかは、仏式で説明したことと同じです。神式では、火葬が終わったら本来はその日のうちに埋葬するのですが、このごろは一旦家に遺骨を持ち帰り、五十日祭のころに埋葬することが多くなっています。
 埋葬の場合は、遺骨を墓所に納めてから、「埋葬祭」を営みます。
 火葬場から、いったん家に帰る場合は「帰家祭」を営みます。参列者は、入口でお祓いを受け、霊璽を祭壇に安置して、祭詞奏上、玉串奉奠をして、これで神式の葬儀は終了します。
 翌日に翌日祭、そのあとは十日ごとに祭り、五十日祭で忌明けとなります。このときに初めて、神棚封じを取り除きます。また、それまで仮の霊舎に祀ってあった霊璽を祖先の祖霊舎に合祀(ごうし)することになります。
 仏教では、人が死ぬとその魂は西方極楽浄土に行くとされますが、神道では、魂は家の近くの氏神様の社(やしろ)に帰り、祖霊となって子孫の守り神になります。そして年に何回か、たとえば正月や盆には家に帰ってくるのです。神道による葬儀では、こうした死生観にもとづいて一連の儀式が行われます。